平家物語の「舞台」を巡る旅(最終回)

▶これまでの、平家物語の「舞台」を巡る旅    

追いかけて、壇ノ浦

新幹線の新神戸駅で合流、神戸三宮フエリーターミナルから船に乗って高松に上陸、今治に移動してしまなみ海道を通り、新幹線の新尾道駅から下関、このように平家を追いかけていくと、どんどん都から離れていくなあ、平家の人たちもこんな気持ちだったんだろうなあ、と思えてきます。

源義経の軍勢は屋島で平家に勝った勢いに乗って、そのまま追撃しました。

さるほどに九郎大夫判官義経、周防の地におしわたって、兄の参河守と一つになる。平家は長門国引島にぞ着きにける。源氏阿波国勝浦に着いて八島のいくさにうち勝ちぬ。平家引島に着くと聞こえしかば、源氏は同国のうち、追津に着くこそ不思議なれ。(巻十一 鶏合・壇浦合戦)

そのうち九郎大夫判官義経は周防の地に渡って、兄の参河守範頼と合流する。平家は長門国引島(彦島)に着いた。源氏は阿波国勝浦に着いて八島の戦さに勝った。平家が引島に着くとうわさに聞こえてきたところ、源氏は同じ長門国の追津(干珠・満珠)に着いたのは不思議なことだ。

島=引く=しりぞく平家、津=追う=追いかける源氏、地名が戦さの成り行きを暗示しているようで、たしかに不思議です。

壇ノ浦を一望する

壇ノ浦を山の上からながめます。下関駅からバスにのって、赤間神宮の前をとおり、御裳川のバス停で下車。坂道を上がって火の山公園に行き、火の山ローブウエイに乗りました。今回の旅では須磨浦公園に続いて二度目のロープウエイ。

わたしたちが訪問した2022年4月2日は、ちょうど桜が満開でした。ロープウエイの窓越しに、関門橋がかかる、関門海峡が見えます。これが壇ノ浦!

……とながめている間に、山上に到着。ロープウエイは楽だなあ。

展望台に看板がありました。どれどれと、実際の景色と見比べてみると、右上の手前にあるのが平家が拠点にしていた彦島(引島)、向こう側は日本海の玄界灘です。

そして、こちら側は瀬戸内海の周防灘。

上の写真に写っている景色から視線をもうすこし左に動かすと、ふたつの島、干珠(左)満珠(右)が見えます。ここが『平家物語』にいう追津です。

現在も船がひっきりなしに行き来していますが、源氏方は周防灘を通って、干珠・満珠からこちらにむかってきました。平家方は写真右の対岸から干珠・満珠の方向に漕ぎ出します。さあ、脳内でホラ貝の音が聞こえてきたぞ!

さる程に源平の陣のあはひ、海のおもて三十余町をぞへだてたる。門司、赤間、壇ノ浦はたぎりて落つる潮なれば、源氏の舟は潮にむかうて心ならずおしおとさる。平家の舟は潮におうてぞ出できたる。(巻十一 壇浦合戦)

そうするうちに源平双方の陣の間隔は、海面330メートルぐらいあいていた。門司、赤間、壇ノ浦は海水が逆巻いて落ちるような潮の流れなので、源氏の舟は潮に向かって思いどおりに進まず押し戻される。平家の舟は潮の流れに押し出されるように出てくる。

つぎに向かうのは

つぎは海上から門司、赤間、壇ノ浦をみる予定です。バスで唐戸に戻り、関門連絡船で門司港に行き、土曜日に一便だけ運行される、関門海峡遊覧クルージングに乗船します。

ロープウエイのまんじゅで下りましょう。

海岸に向かって歩いていくと、“ちょっと待て あの平家茶屋 気になるぞ”(五・七・五)

ということで、昼食。予約はしていなかったけれど、13時まででしたら個室をご利用いただけますと言われ、大喜びでお願いしました。クルーズの出航時間が13時なので時間は大丈夫。むしろ、クルーズの時間に間に合うように食事を終えて門司港に移動しなくてはならぬ。少々急ぎましょう。

平家茶屋の個室の名前は干珠でした。

もちろん食事はしっかりと味わって、目の前にひろがる景色も味わって、いそがしかったけど満足~。

「平家茶屋」の個室からの眺め。目の前の白いタンクの並んでいるあたりが田の浦。そこから平家が潮の流れに押されるように東に向かって出陣しました。

ところが、時間がたつと潮の流れが西に変わります。また義経の命令で水主梶取が殺されたために平家は船の操縦ができなくなり、この辺りに押し戻されてきました。源氏方は陸からも矢を射かけたといいます。

さる程に、四国、鎮西の(つわ)(もの)ども、みな平家をそむいて源氏につく。いままでしたがひついたりし者ども、君にむかって弓をひき、主に対して太刀をぬく。かの岸に着かんとすれば、浪たかくしてかなひがたし。このみぎはに寄らんとすれば、(かたき)矢さきをそろへて待ちかけたり。源平の国あらそひ、けふをかぎりとぞ見えたりける。(巻十一 遠矢)

そうするうちに、四国、九州の武士たちは、みんな平家を叛いて源氏に味方する。いままで従っていた者たちも、主君にむかって弓を引き、あるじに対して太刀を抜く。むこう岸に着こうとすると、浪がたかくて着けない。ちかくの岸に寄ろうとすると、敵が矢さきをそろえて待っている。源平の国争いは、今日で最後と見えた。

みもすそ川公園

唐戸にむかうバスを待つあいだ、みもすそ川公園を散策。安徳帝御入水之処の碑があります。

真ん中の赤いのぼりがある場所から、平家茶屋をみたところ。

壇ノ浦の海の上

では、あらためまして、バスで唐戸に戻り、関門連絡船で門司港に行き、土曜日に一便だけ運行される、関門海峡遊覧クルージング。門司はモダンな町ですね。ここから出港します。

これから関門海峡をぐるっとまわります。コンクリート建造物は脳内で消去してっと…。

壇ノ浦は急に狭くなっています。最後はあそこで船が入り乱れたのか。

船がぐるっと向きをかえると、満珠・干珠の島が見えます。実際に海の上から眺めると、関門海峡の東と西に広がる海が意外と広いことに気づきます。この海を船がはしりまわったんだなあ。

関門汽船株式会社 – 関門汽船株式会社 (kanmon-kisen.co.jp)

火の山下潮流信号所

ずっと気になっていた電光板。

関門海峡海上交通センターのホームページには、「関門海峡は、日本で、最も潮流が速い海域の一つで、S時型に曲がって行会い船も見えにくく、航海者には、大変な難所であるため、明治42年(1909年)8月から、部埼と台場鼻に潮流信号所が設置されました」とあります。現在の電光板方式は、昭和54年(1979年)から採用され、火の山下潮流信号所が追加されたとのことです。

Wは瀬戸内海の周防灘から玄界灘に向かう流れ、Eは日本海の玄界灘から周防灘に向かう流れ。流れの速さと、これから流れが速くなるのか遅くなるのかという情報も表示されます。

潮流情報 関門海峡海上交通センター (mlit.go.jp)による

源平合戦の時代にはこんな測定装置はなかったけれど、昔も今も変わらず、潮の流れの向きや速さが一日に何度も変わっている。――よく考えれば当たり前のことですが、自然界では昔と今がつながっているなあと感動してしまいます。

赤間神宮

赤間神宮にある平家一門の墓を訪れました。

浪の下の都

 山鳩色の御衣(ぎょい)にびんづら結はせ給ひて、(おん)(なみだ)におぼれ、ちいさくうつくしき(おん)()をあはせ、まづ東をふしをがみ、伊勢大神宮に(おん)(いとま)申させ給ひ、その後西にむかはせ給ひて、御念仏ありしかば、二位殿やがていだき奉り、「浪の下にも都のさぶらふぞ」となぐさめ奉って、千尋の底へぞ入り給ふ。

  悲しき哉、無常の春の風、忽ちに花の御すがたを散らし、なさけなきかな、分段(ぶんだん)のあらき浪、玉体を沈め奉る。殿(てん)をば長生と名づけてながきすみかとさだめ、門をば不老と号して老せぬとざしとかきたれども、いまだ十歳(じっさい)のうちにして、底の水屑(みくず)とならせ給ふ。(巻十一 先帝身投)

 山鳩色のお召し物にびんづらを結って、涙を流して、小さくかわいらしい手をあわせ、まず東を拝んで、伊勢大神宮にお暇を申し上げ、その後西に向かって、念仏をおとなえになったので、二位殿はそのままお抱きし、「浪の下にも都がございますよ」とおなぐさめして、千尋の底へお入りになった。

 悲しいことだ、無常の春の風が、たちまち花のような御すがたを散らし、嘆かわしいことだ、段になった荒波が帝のおからだを沈めた。殿舎を長生と名づけて“ながきすみか”とさだめ、門を不老と呼んで“老せぬとざし”と書いたけれど、まだ10歳にならないうちに、底の水屑となられた。

ヘイケ・トラベル・ビューロー/平家物語観光案内所

平家物語の「舞台」を巡る旅、いかがでしたか。土地のもつエネルギーが、物語に深みを与えてくれます。平家物語をお供に、みなさんも旅をしてみませんか。

★★一ノ谷・屋島・壇ノ浦合戦を迫力の原文で楽しめるのはこの公演だけ!★★

座・高円寺提携公演 春の劇場06
「平家物語〜語りと弦で聴く〜一ノ谷・壇ノ浦」
2022年5月25日(水)~29日(日)

【会場】座・高円寺1
5月25日(水)19:00
5月26日(木)14:00★◆
5月27日(金)19:00
5月28日(土)14:00★◆
5月29日(日)14:00
★託児サービス◆ポストトーク:26日(金子、須川)/28日(金子、須川+特別ゲスト:波紋音奏者 永田砂知子)

【章段】坂落、敦盛最期、小宰相身投、那須与一、壇浦合戦、先帝身投(休憩含み約90分)

【出演】金子あい(語り芝居)/須川崇志(コントラバス・チェロ)

【チケット料金】全席指定一般=5,000円 /ペアチケット=9,000円(2名1組)/U20チケット=2,000円(art unit ai+のみ取扱。要当日身分証)
*未就学児の入場はご遠慮いただいております。

【チケット取扱・お問合せ】
◉art unit ai+ 090-1232-1363 (10:00~18:00)auaplus@gmail.com
チケット申込フォーム(24h受付) https://forms.gle/B2z1RnZNt64LQG2V6
◉座・高円寺チケットボックス (月曜定休)
03-3223-7300(10:00~18:00)/窓口(10:00~19:00) https://za-koenji.jp/(無休24H受付)

【無料関連イベント】「もっと楽しくなる!『平家物語』はじめて講座」各回共、同じ内容。
<会場>座・高円寺 阿波おどりホール
① 4月21日(木) 14:00〜15:00 終了 ② 5月6日(金) 14:00〜15:00 終了
<オンライン>(申し込み後にURLをお知らせします)
③4月21日(木) 20:00〜21:00 終了 ④ 5月6日(金) 20:00〜21:00 終了


公演詳細はhttps://aikaneko.com/6939/

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