金子が解説!見どころ聴きどころ 4 「千手前」

平家物語〜語りと弦で聴く〜滅亡の焔

2013@座・高円寺2(photo by NOKO)

牡丹の花にたとえられた平家物語随一のモテ男、平重衡。

一の谷合戦で生け捕りになった彼が鎌倉へ送られた時の胸キュンのお話です。

あらすじは、こんな感じ。
一の谷合戦で討たれた平氏の公達たちの首が京中にさらされました。
生け捕りにされた重衡は京の大路を引き回されます。
後白河院は平氏に三種の神器と重衡の身柄の交換をもちかけ、平氏一門にあてた手紙を、当の重衡に書かせました。三種の神器と自分との交換を承諾するはずがないと思いながらも、院の仰せなので重衡は断れませんでした。

屋島に院宣が届くと、一門の棟梁である宗盛は、知盛の意見も入れて、断りの請文(返事)を書きました。重衡は命乞いと取られるような手紙を書いたことを恥ずかしく思い、平氏一門が拒否するのは当然のことだと思いながらも、心細かく思いました。鎌倉にいる頼朝が重衡を引き渡すようにしきりに言うので、鎌倉に下ることになりました。

頼朝は、南都を炎上させたのは、清盛の考えか、それとも重衡の判断かと尋ねます。重衡は予想外のことだったと答え、平家の運が尽きてしまったからには、はやく首をはねてくれと言い、あとは口を閉ざします。そのいさぎよい態度に、同席していた源氏方の人々はいたく感動します。頼朝は狩野介宗茂に重衡の身柄を預けます。

狩野介は重衡のために湯殿を準備し、千手前に入浴の世話をさせます。
夕刻、千手前が、琴と琵琶を人に持たせて部屋に入ってきます。狩野介も郎等たちと同席し、重衡に酒を勧めます。千手前の朗詠をきき、自らも琵琶を弾くうち、重衡の塞ぎ込んでいた気持ちも慰められていきます。重衡の朗詠と琵琶の演奏を、隠れて聞いていた頼朝も感動をおぼえました。千手前は重衡を愛しく思い、奈良の大衆の手で処刑されたと聞くと、すぐに出家して重衡の菩提を弔い、やがて極楽往生を遂げたといいます。

さて、この章段を理解するポイントは、重衡がお付き合いしていた内裏のある女房にもらした言葉にあります。

「自分の考えで奈良を焼いたわけではないが、部下には乱暴な者たちが多く、転々に火をつけた。部下の罪はリーダーである自分の罪である。」

聞かせてやりたいです。どこぞの国のリーダーに。

京に囚われている間、重衡は出家をしたいと願いますが叶いません。親しくしていた法然上人と面会し、犯した罪を悔い、死後への不安を吐露します。出家は無理でもと、法然上人は形ばかり剃髪の真似をしてやり、弥陀の名号を唱えよといいます。

この章段は千手が様々な歌や曲で重衡を慰める、とても音楽的な章段です。

重衡と千手前の風流なやりとりをちょっとご紹介しましょう。

宴席でつまらなそうにしている重衡に千手前は詠います。
〽羅綺の重衣たる。情けないことを機婦に妬む
(―ほそい絹糸で織った薄い衣を身にまとい、舞姫は、衣が重いと、衣を織った女を憎む。 このような石はお嫌ですか?都では、このような美しい舞をいつも楽しんでいらっしゃったのでしょうね…)

その朗詠を聴いた重衡は
「それは北野の天神(菅原道真)が作った詩句だね。朗詠する人を北野天神が守って下さるという。しかし私は一門にも神にも見捨てられた身、朗詠してもしかたがない。もし罪が軽くなるのなら、私もあなたとともに朗詠するが」

すると、千手前は
〽十悪といへども引摂す
〽極楽願はん人はみな、弥陀の名号唱ふべし
(―どんなに重い罪を犯した人でも阿弥陀仏は極楽に導いてくださいます。―極楽往生を願う人は、みんなで阿弥陀仏の名を唱えましょう。)

法然と同じことを彼女は言いました。
思わず一口酒を飲む重衡。

千手前は「五常楽」を琴で演奏します。

重衡は、それは「五常楽(ごしょうらく)」という楽曲だけど、わたしにとっては「後生楽(ごしょうらく)」(来世の安楽を願う楽曲)だ。では私は「往生(おうじょう)の急」(極楽往生を願う楽曲)を弾こうか」と戯れて「皇麞(おうじょう)の急」を琵琶で演奏します。

重衡は、鄙にもこれほどの女性がいたのかと感激し、もう一曲詠ってくれと頼みます。

千手前は
〽一樹の陰に宿りあひ、同じ流れを結ぶも、みなこれ先世のちぎり
(重衡さまと私がこうしてお会いできたのも、前世で深い縁が結ばれていたからでしょうか)

重衡も
〽灯闇うしては数行虞氏が涙
(項羽が虞氏との別れを惜しむように、私も君と離れるのがつらくなった)と返します。

胸がキュンキュンしますです。

それを密かに立ち聞きしていた頼朝が、翌朝、報告に来た千手をからかうのもおつな感じがします。

結局、一年後に重衡は奈良へ渡されて処刑されますが、それを聴いた千手は出家をし、彼を供養し、往生したというお話です。なんとなく寂しげに聞こえるかもしれませんが、平家物語において、往生する、というのはある種の幸せな最後を遂げるという意味でもあり、千手にとっては一生想い続ける大切な人と巡り合えたということなのかもしれません。

この章段では須川崇志さんがチェロを弾きます。



俳優金子あいとジャズベーシスト須川崇志が時空を超えて表現する「平家物語」をぜひ目撃しに来てください。


平家物語~語りと弦で聴く~【滅亡の焔】公演 詳細はこちら

座・高円寺2
2021年10月28日(木)16時
29日(金)13時/18時

チケット(一般4,500円、学生<30歳以下>2,000円)
お申し込みはauaplus@gmail.comへメール
または090-1232-1363へお電話で



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