芸術を愛した武将たち〜頼政・経正・忠度〜
今回の「平家物語」──控えめに申し上げて“すんごい”です。語り・ジャズ・楽琵琶・薩摩琵琶語り…三者三様を生かしたセッション、絶妙なバランス!艶やかなそれぞれの音色を堪能できる、またとない機会。そこで金子の「愛」あふれまくる「あらすじ&解説」をお届けします!!
鵼
これはもうSFXですね。エイリアンとか未知との遭遇とか(古い?)。これをどうベースと表現するかを考えるのがめっちゃ面白いです!
源頼政は、酒呑童子や土蜘蛛退治で有名な源頼光の子孫なんですよね。保元・平治の合戦でめちゃくちゃ頑張ったのに、大した評価もされなくて、大内守護になったけど、ちっとも出世しなくて、「どうせ私のような大内山の山守は木の陰から帝を見るばかりですよ」という和歌を詠んで、四位に昇進しました。でもやっぱり一族の栄誉として三位になりたい…「出世するようなコネもなくて、どうせ私は木の下で椎(四位)のみを拾って一生を終えますよ」なんて和歌を詠んだら三位になった。出家して今年75歳なう。
この人の生涯の手柄は、なんと「化け物」退治!
頼政50歳のころ、近衛院が夜な夜な東三条から黒雲に乗ってやってくる化け物に怯えて苦しんでおりました。公卿会議で「昔、堀河天皇の時には、将軍源義家が名乗っただけで(魔物が)震え上がって治っちゃった。こういう時はやっぱ武士でしょ」ということで、頼政が選ばれました。頼政は「目にも見えない化け物を退治しろって、そんなの聞いたこともない」と言いながらも、命令なので参内しました。頼政は尖り矢を2本を持参。もし1本めで失敗したら、2本目で自分を指名した雅頼卿の首の骨を射抜いてやろうという腹づもりでした。
さあ、ここからは脳内でSFX映画を想像してください。
噂通り丑の刻になると、黒雲がぶわ~~~~っと御所の上にたなびきます。頼政がきっと見上げると、雲の中に怪しい姿が(エイリアン並みのやばいやつ)!失敗したら死ぬぞ…と思いながらも、頼政は見事に射落とします。郎党の井の早太がとどめを刺した化け物は、頭は猿、むくろはたぬき、尾は蛇、手足は虎の姿で泣く声は鵺に似ていたと言います。(←できるだけ一番怖いやつを想像してね。)
さて頼政60歳くらいの時、二条院を悩ました鵼という化鳥を退治をしてふたたび名を挙げました。その後、悠々自適な老後を送るはずの人が、無謀なクーデターを起こして以仁王を死なせ、自分も自害するとは情けないことだ、と平家物語では書いています。
この時の以仁王の令旨により、頼朝や義仲が蜂起して源平の合戦から鎌倉幕府へとつながっていくのですから、本当に何が歴史を作っていくかわかりませんね。
経正都落
さて、平家物語の中でもワタクシが心惹かれるのが都落です。二十数年にわたり、国のトップで繁栄を築いた平家一門数千人が、首都から落ちて(逃げて)いく、しかも関係各所に火を放って。一言で言えば、「夜逃げ」(出発は朝ですけど。)ですが、その慌ただしさの中でも、平家の公達一人一人が都に託していく思いや事情が見事に描かれ、胸に迫ります。
修理大夫経盛の子息、皇后宮亮(こうごくうのすけ)経正は、琵琶の名手でした。弟の敦盛も笛の上手でしたから、音楽に秀でた一家だったのですね。都落の慌ただしさの中で、幼い頃からお仕えしていた仁和寺の御室(法親王)に別れの挨拶に行きました。すでに甲冑姿でお目にかかるのが憚られると遠慮する経正に、御室はその姿で良いと対面します。経正は、授かり預かっていた「青山」という琵琶の名器をお返しします。音楽家である経正には、国宝の素晴らしい琵琶を戦場に持っていくことはとてもできなかったのです。音楽を愛する青年は戦争などこれっぽっちも望んでなかったと思います。「もし都へ戻ることがあれば、その時にまた預からせてください」。その可能性がないことは経正にはわかっていたと思います。経正は、仁和寺の僧侶たちにもとても慕われていました。中でも親しくしていた行慶は桂川まで見送ります。二人が別れの歌を交わす場面はそこはかとない色気があるなぁと密かに思うシーンです。
その後、経正は一の谷の合戦で討たれます。才能があり将来のあるはずだった若者の命を戦争は奪う。今も世界の各地で戦争が起きていること思わずにはいられません。
青山の沙汰
この青山は、850年ごろ、掃部頭貞敏という人が唐に留学して、琵琶の博士廉承武に秘曲を習って帰国する時に持ち帰った琵琶(玄象、獅子丸、青山)のうちの一つでした。その110年後の961年ごろ、村上天皇がある夜、清涼殿で琵琶を弾いていると、目の前にぼーっと廉承武の亡霊が出てくるんですね。自分は貞敏に秘曲3曲のうち1曲を教えなかったために魔道に沈んでいる、あなたにこの曲を授けて成仏したい、と青山を演奏して帝に教えたというのです。その後、畏れて誰も弾かなかった青山を、経正が授かり預かったのです。琵琶は残り、弾いていた経正はもういない…うう…泣ける。
しかし、なんで廉さんは1曲教えなかったのか…なんで魔道に沈んだのか…私は気になって仕方がありません。これはアフタートークで喋りますので楽しみにしていて下さい。
今回はこの章段に合わせて、岩佐鶴丈さんに楽琵琶で当時伝わったという秘曲を弾いていただきます。どうぞ大陸の悠久の時を感じる秘曲をお楽しみください!
忠度都落
さて、後半は、文武両道のオサレなイケオジ薩摩守忠度のお話。
忠度は都落の時に、和歌の師である藤原俊成の屋敷に行きます。平家のせいで、この二、三年は京都の騒ぎ、国々が乱れていると無沙汰を詫びる忠度。千載集プロジェクトの中断を嘆き、この戦乱が終わった時には、自分の歌をどうか一首だけでも入れてほしいと、マイベスト百首を書いた巻物を俊成に託します。決しておろそかにはしないと約束する俊成。忠度は、思い残す事は無いと、別れの歌を高らかに口ずさみながら西へと落ちて行きました。二度と会うことはない師弟。忠度の後ろ姿が印象的です。
やがて一の谷の合戦であえない最期を遂げることになる忠度。彼にとっては、歌が千載集に入れられることで、生き続けることができるのかもしれません。
戦後、千載集プロジェクトが再開すると、俊成は忠度の歌を一首入れてやります。しかし、朝敵のため「詠み人知らず」と入れられました。忠度にとってはさぞうらめしかっただろうと思います。
忠度最期
一の谷の合戦で平家は、義経の攻撃で総崩れとなり、公達はたすけ船に向かって逃げます。忠度も百騎余りに囲まれながら落ちていきますが、追って来た猪俣党の岡部六弥太に名を問われるとに「これは味方だ」と言い放って逃げようとします。しかし六弥太は忠度がお歯黒をしているのを見つけ、組みつきます。熊野育ち大力の早業の忠度が六弥太の首を獲ろうとした時、六弥太の童が忠度の右腕を斬り落とします。もはやこれまでと思った忠度は、片手で六弥太を投げ飛ばし、西に向かい念仏を唱え最期を迎えます
この肝の座った忠度の最期。
ところが、六弥太は自分が討った相手が誰だか知らないんですよ。箙に付けられた文に一首の歌に「忠度」と署名があり、平家の超大物であることを知ります。
「忠度を討ったどーーーー!」と叫ぶ六弥太。
これを聞いて敵も味方も涙しました。「行き暮れて〜」忠度の和歌には優しい眼差しが感じられます。
ここまでの章段では、和歌がたくさん出て来ます。和歌に託したそれぞれの思いもぜひ味わってください!
壇浦合戦 付遠矢
最後は、これはもう説明なしでもわかるくらい!源平合戦のクライマックスである、壇浦の合戦。はじめ優勢となった平家の運命が変わる瞬間を「壇浦合戦」と「遠矢」の章段から抜粋でお届けします。いつもとは一味違う、琵琶語り、ベース×琵琶×語りのセッションで盛り上がります!!

金子あいの「語り」と須川崇志の「即興ジャズ」、魂のセッション──!!
今回は、琵琶奏者の岩佐鶴丈氏を特別ゲストにお招きし、琵琶の名手で美しい平家の公達経正と、唐より相伝の琵琶「青山」にまつわる秘曲を演奏していただく特別企画です。 源頼政の化け物退治「鵼」から、平家滅亡の「壇浦合戦」まで、息もつかせぬ面白さ。どうぞお聴き逃しなく!
┃日時┃
7月9日(水)19:00開演★
7月10日(木)14:00開演/19:00開演★
★アフタートーク登壇者
9日:小井土守敏(大妻女子大学文学部教授 中世軍記文学研究)、須川崇志、金子あい
10日:岩佐鶴丈、須川崇志、金子あい
┃会場┃ 座・高円寺2
┃章段┃
【第一部】
巻第一「祇園精舎」
巻第四「鵼」
巻第七「経正都落」「青山沙汰」
楽琵琶演奏「楊真操」
【第二部】
ベース ソロ
巻第七「忠度都落」
巻第九「忠度最期」
琵琶語り「壇の浦」
巻第十一「壇浦合戦 付遠矢」
┃出演┃
金子あい(語り芝居)
須川崇志(コントラバス)
*特別ゲスト
岩佐鶴丈(琵琶)
┃料金┃(全席指定)
一般=5,000円 /ペア・グループ=4,600円(2名名以上1名に付)/23歳以下=1,000円(枚数限定)
┃チケット取扱・お問合せ ┃
◉ art unit ai+ 090-1232-1363 auaplus@gmail.com
┃スタッフ┃照明:和田東史子/音響:荒木まや/舞台監督:穂苅竹洋/舞台監督助手:齋藤莉愛瑠/演出助手:伊奈山明子/アートディレクション:トクマスヒロミ/ヘアメイク:荻野しずこ/
衣裳:鑓田由美子/古典監修:野澤千佳子/制作助手/さかまきゆう/ 宣伝写真:bozzo
┃協力┃渋空/shibusora/(株)藤原プロデュース/かなえのかい
┃後援┃杉並区
┃企画・制作・主催┃ art unit ai+

その先の10年へ、古典を未来に。
2002年から平家物語を語り始めはや20年。2011年から現代的な音楽とのコラボで「平家物語〜語りと波紋音」「平家物語〜語りと弦で聴く」を上演して10年が経ちました。いまに通じる古典の面白さを伝えたい、そして、何よりも私自身が古典の魅力の虜になって無我夢中でやってきました。これまでに83公演、8000名以上の方にご覧いただくことができました。心より感謝申し上げます。今年5月にはこれまでの感謝を込めて、集大成となる公演を行います。ぜひ劇場に足をお運びください。
そして──その先の10年へ、古典を未来に。
平家物語がみなさまの人生を豊かに、生きる力となるよう、この先の10年もさらにこの活動に取り組んでいきたいと思っています。多くの方に楽しんでいただけるハイクオリティな舞台・映像作品を作ってまいります。夢は大きく、全国に!海外に!平家物語を聴いていただきたいと思っています。どうか一緒に作品を作ってくださいませんか。
ぜひ私たちの「平家物語」を応援してください。みなさまのサポートをお待ちしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
ゆうちょ銀行
〈郵便局からの場合〉00100-7-695152
〈銀行からの場合〉店名:〇一九(ゼロイチキュウ)(019)
当座預金 0695152
口座名:art unit ai+
振込用紙の備考欄に「平家物語支援」、お名前、ご住所、お電話番号を必ずお書きくださいますようお願い申し上げます。
auaplus@gmail.com
┃「平家物語」舞台映像┃
『平家物語〜語りと弦で聴く〜俊寛』(アートにエールを!東京プロジェクト助成)68分+アフタートーク
祇園精舎、鹿谷、赦文、足摺、有王、僧都死去 2020.11.13@座・高円寺2で収録
┃プロフィール┃
金子 あい(俳優・アーティスト)
東京藝術大学大学院環境造形デザイン修了。art unit ai+主宰。和洋を問わず現代劇から古典まで様々な舞台で活動。2011年より演出・主演をつとめる「平家物語」シリーズを波紋音の永田砂知子と全国で公演。2020年からは気鋭のジャズベーシスト須川崇志と「平家物語〜語りと弦で聴く」シリーズを上演。圧倒的で鮮やかな語り芝居で古典を蘇らせる。その他に舞台「語り×浄瑠璃 琵琶法師耳無譚」「音楽&語り 千一夜物語」「石牟礼道子 六道御前」「紫式部の気ままに源氏物語」、YouTube「おうちで読もう百人一首」シリーズ等を発表。主な出演作は「子午線の祀り」(第25回読売演劇大賞最優秀作品賞)「雁作・桜の森の満開の下」日生劇場「アリスのクラシックコンサート」「アラジンと魔法のランプ」オペラ「連隊の娘」等。能を喜多流粟谷明生に、新内節を鶴賀流第十一代家元鶴賀若狭掾(人間国宝)に師事。「平家物語」の朗読指導にも力を入れている。
須川崇志(Bass,Cello)
群馬県伊勢崎市出身。11歳の頃にチェロを弾き始め、18歳でジャズベースを始める。2006年、ボストンのバークリー音楽大学を卒業。その直後に移住したニューヨークでピアニスト菊地雅章氏に多大な影響を受ける。2009年に帰国後、辛島文雄トリオを経て日野皓正バンドのベーシストを6年間務める。現在は峰厚介カルテット、本田珠也トリオ、八木美知依トリオ他多くのグループに参加。数多くの国際ジャズフェスティバルに出演。近年は、Audi A5新車発表会での楽曲制作と演奏(2017)、岡本太郎記念館の企画展「日本の原影」のためのソロ楽曲制作 (2019)や、俳優の金子あいの舞台「平家物語」に即興演奏で参加。米津玄師「ゆめうつつ」、YUKI「泣かない女はいない」(2021) などレコーディング参加作品も多数。また2018年にデビューアルバム作品「Outgrowing」(レオ・ジェノヴェーゼ, トム・レイニー)を、2020, 21年に自身が主宰するピアノトリオ、Banksia Trio (林正樹, 石若駿)で「Time Remembered」,「Ancient Blue」「Masks」全4作のリーダーアルバムをリリースしている。