めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かげ
<幼なじみとめぐり逢う物語> English subtitles available/日本語・英語字幕
百人一首の紫式部の歌は、幼なじみの月子(仮名)との、束の間の出会いを詠んだものです。ふたりが出会った時間と場所については諸説あります。「めぐりあひて」の歌や新古今集の詞書を素直に読むと、空に月が出ている夜、どこかのお屋敷で会ったととれますが、姫がほんとに真夜中にでかけるの? という疑問が、脚本を練っていく過程で出てきました。現代の私たちなら出かけるかもしれませんが、平安主婦の月子(仮名)が真夜中に出歩くことはないかも…。そこで、牛車と牛車ですれ違ったという説を採用して、イメージを膨らませました。牛車の御簾ごしに中に乗っている人がわかるの?牛車がすれちがったときに、昔の彼女の顔がみえたので、和歌を贈ったという例がいくつかあります。
久しぶりに幼なじみにあったうれしさ、すぐに別れなくてはならなかった残念な気持ち。和歌からストーリーが浮かび上がってくるのは、さすが、紫式部。
なお、『源氏物語』には作中人物が詠んだ和歌が約800首あります。気弱な和歌、強気な和歌、わざとかみあわない返事の和歌、紫式部が場面の人物になりきっていろいろ詠み分けています。
第五句「夜半の月かげ」は、教科書などでは「夜半の月かな」となっています。「月かげ」は〈月の光〉。「月の光」!と言い切るか、「月だなあ」としみじみ詠嘆するか。ふたつある本文のうちどちらが好き?という問題です。なんで本文が2つもあるの?直接の原因は、コピー機も印刷機もないので、すべて手で書き写していたから。伝本による本文比較は国文学研究の一分野になっています。(わたくしも野澤の旧姓、鳥井千佳子で、清輔本古今集の本文について論文をかきました)(文 野澤千佳子)
★典拠 「めぐりあひて」の歌…新古今集雑上1499番詞書「はやくよりわらはともだちに侍りける人の、としごろへてゆきあひたる、ほのかにて、七月十日の比、月にきほひてかへり侍りければ」
★使用した画像 源氏物語絵色紙帖 夕霧 詞花山院定熈 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/) 平治物語絵巻 六波羅行幸巻 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)を加工して作成
★「おうちで読もう百人一首」シリーズは、劇場に足を運んでいただけない今、ステイホームのおともとして古典を楽しんでいただきたいと始めました。倉敷の古典の専門家・野澤千佳子が個性豊かな歌人達の面白エピソードを盛り込み脚本を書き起こし、東京の俳優・金子あいが、毎回、和歌の作者として登場。創作の背景やこだわりを生き生きと喋り、撮影、編集、背景のデザインまで全てを自宅で作っています。そして音楽は琴奏者の大月邦弘が出雲から参加!衣装家の細田ひなこが宅配便で衣装を届けるといった具合に、まさにテレワークで作りました。ステイホームが終わってもぜひご家族で楽しんでくださいね♪ 教育現場での活用も大歓迎です。
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出演・撮影・編集・デザイン:金子あい /脚本・監修:野澤(鳥井)千佳子/英語字幕:浜本妙子 /箏演奏:大月邦弘 /衣装協力:細田ひなこ
2020@art unit ai+