朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木
<シティボーイ藤原定頼の誤算!> English subtitles available/日本語・英語字幕あり
かるたの名品、光琳かるた。読み札(上の句)には歌人絵、取り札(下の句)には和歌の内容にあわせた絵が金箔の上に描かれています。64番「朝ぼらけ」の歌を詠んだ藤原定頼は、60番小式部内侍の歌の取り札にも後ろ姿で登場しています。
4番目の勅撰集「後拾遺和歌集」の恋の部には、定頼が詠んだ恋の歌は採られてないのに、「中納言定頼がもとにつかはしける」のように、女性たちが定頼に送った恋の歌が5首も採られています。いったいどういうことでしょう。なかでも、大和宣旨とよばれる女性は、訪れが途絶えた定頼にあいたくて、賀茂まで追いかけていき、物陰から定頼の姿をみて胸をこがしたとか(無名草子)。
定頼がお付き合いをした数多くの女性たちのなかに、小式部内侍がいました。母は天才歌人といわれる和泉式部。小式部内侍の歌はまだ注目されていませんでしたが、歌合に参加することが決まりました。通常の歌合は前もって歌題が与えられ、歌を準備していきます。母の和泉式部は、その頃、夫とともに丹後国に赴任して京都にいません。定頼は軽い気持ちで、「お母さんに頼んで、代わりに詠んでもらった歌は丹後からとどきましたか」とからかいますが、即座に60番「大江山」の歌で逆襲されます。京都から丹後に行く道筋にある、生野、大江山、天の橋立という地名をなめらかに詠み込み、掛詞も駆使するという神技。「大江山」の歌によって、小式部内侍の歌人としての評価はぐんと高まりました。
「朝ぼらけ宇治の川霧」と定家好みの格調高い和歌を詠み、美しい容姿で女性をとりこにした定頼の、「絶え絶えに」(ところどころ)ダサい失敗談のひとつ。60番小式部内侍の歌の、光琳かるたの取り札に描かれた定頼の後ろ姿には哀愁が漂っています。
(文:野澤千佳子)
(関連の一首:60番 小式部内侍) 大江山 いくのの道の 遠ければ まだふみもみず 天橋立
★典拠:小式部内侍との一件…金葉集雑550番詞書、『俊頼髄脳』『十訓抄』三ノ一など。
★「おうちで読もう百人一首」シリーズは、劇場に足を運んでいただけない今、ステイホームのおともとして古典を楽しんでいただきたいと始めました。倉敷の古典の専門家・野澤千佳子が個性豊かな歌人達の面白エピソードを盛り込み脚本を書き起こし、東京の俳優・金子あいが、毎回、和歌の作者として登場。創作の背景やこだわりを生き生きと喋り、撮影、編集、背景のデザインまで全てを自宅で作っています。そして音楽は琴奏者の大月邦弘が出雲から参加!衣装家の細田ひなこが宅配便で衣装を届けるといった具合に、まさにテレワークで作りました。ステイホームが終わってもぜひご家族で楽しんでくださいね♪ 教育現場での活用も大歓迎です。
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出演・撮影・編集・デザイン:金子あい /脚本・監修:野澤(鳥井)千佳子/英語字幕:浜本妙子 /箏演奏:大月邦弘 /衣装協力:細田ひなこ
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